「据え膳食わぬは男の恥」/アスペの魂が震えた言葉集

アスペの魂が震えた言葉集

これができたら人生違ったんだろうな、と思うものがいくつかあります。

「据え膳食わぬは男の恥」という言葉は、歌舞伎のセリフを起源とする、江戸時代から伝わる故事です。
据え膳(=用意されたお食事。転じて、女性からのアレのお誘い)を食わない(=受け入れない)のは男として恥ずべきことだ。つまり、
「女性からのアレのお誘いは断るなよ」
という意味で、これを男性に置き換えて言おうものなら炎上間違いなしの言葉です。

据え膳を食う、つまり「女性から誘われてコトに及ぶ」というシチュエーションは、時代を問わず男の妄想を駆り立ててやみません。AVでもそのジャンルは常に根強い人気があります。
しかし、実際にアスペルガー人(孤立型)がそのような場面に遭遇すると、現実はそう甘くないことを思い知らされることになります。

  • 予想外の展開に対応できない
  • 人と不用意に距離を縮めることを怖がる(警戒心が強すぎる)
  • 相手の感情を感覚的に察知することが苦手(心の駆け引きが苦手)

という思考パターンが邪魔をして、したくてもできません。それを簡単にやってのける人を、憧憬と嫉妬の目でただ見ているしかないのです。

チャンスは突然だとモノにできない

女性から誘われるということは、今まで生きてきて何度かありました。
「据え膳食わぬは男の恥」とはよく言ったもので、男にとってこれはまたとないビッグチャンスです。しかしそんな時、アスペルガー人(孤立型)である僕は、妄想の中の展開とは真逆の、男としてあるまじき行動をとってしまうのです。

仕事仲間と外で飲んだ帰り道、ホテルに行こうと誘われる。
しかし僕は冗談で言っていると捉えているふりをして「それはないわー」と笑って受け流し、駅に向かう足を速めてしまう。

友人たちとの家飲みのあと、一人を残した他のメンバーは、始発が動き出す時間に帰っていく。二人で二度寝していると、モソモソと同じ布団に入ってくる。
しかし僕は背中を向けたまま、爆睡しているふりをしてしまう。

もちろん気づいています。でも、全く気づいていないふりをしてしまうのです。
相手の女性に魅力がないわけではないですし、もちろんソレ自体が嫌いなわけでもありません。
ただビビっただけです。
相手の心の中に入ってしまうかもしれないことに。

この時の僕の頭の中は、暴走したコンピュータのような状態になっています。
「これはもちろん行くべきだろう」「アレしたんだからって変に距離感詰められても面倒くさいな」「絶対誰かに話すだろうな」「こんなチャンス滅多にないぞ」「でも付き合ってとか言われたらどうしよう」「いまカノジョを作る気ないしな」「次からどんな顔して会えばいいんだろう」「意気地なしって思われちゃうんだろうな」「この人に彼氏がいたらきっとトラブルになるよな」
などと、想定されるあらゆる事が頭をかけ巡り、混乱を極めます。
結果、頭がフリーズして何も対応できなくなってしまうのです。

アスペルガー人には、予想外の展開に遭遇するとパニックに陥るという残念な特性があります。
だから先が全く見えない状況で事に及ぶ度胸など備わっていません。それが自分の日常を、望まない形で大きく変える可能性があることならなおさらです。
ほとんどの女性は、その次の行動には出てきません。
そして僕は小さな安心感とともに、言いようのない後悔と自己嫌悪に襲われるのです。

こういう時、アスペルガー人は、確認して先が見える状態にしておかなければ次に進めません。しかしこういう場で事前に確認をとるというのは野暮極まりない愚行であり、逆に男を下げることにつながりかねません。
「君と付き合う気はないけど、それでもいいの? 絶対そのあと何もない?」などと確認しようものなら、雰囲気も何もあったものではありません。場は一気に冷え込んで、ソレどころではなくなってしまいます。
「別にあなたが好きなわけじゃないけど、今そんな気分だから、一回だけ楽しみましょ」と言ってくれればどれだけラクかと思いますが、そんな都合のいい女性はAVの世界にしか存在しません。

妄想は妄想にとどめておくのが、アスペルガー人にとっては平和なようです。

だから、ものすごく準備をする

この思考パターンは、何も男女間の駆け引きの場だけに限りません。
日常で起こり得るようなことなら、想定外だったとしても長年の知識と経験で問題なく対処できますが、突然でしかも初めて起こる重大なことに対しては完全にお手上げです。
困ったものですが、備わってしまった性質なので受け入れるしかありません。
だから僕は、その場で脳がフリーズしないようにするために、何か事に臨む際は納得がいくまで準備するようにしています。

僕は海外旅行が好きで、あまり治安の良くないと言われる場所に行ったり、単独行動のバックパッカーのような行動を現地でとったりします。
それを話すとほとんどの人は「大胆だよね」とか「チャレンジャーだよね」というようなことを言いますが、実情はまったく違います。

旅に出る前、僕はものすごく入念に下調べをします。
観光や食事や交通についての情報は言うまでもありませんが、特に過去に起こったトラブル事例は可能な限りチェックして、こう来たらこうする、といった行動マニュアルが頭の中に出来上がっている状態でその場に赴きます。旅のプランを立てずにその場のノリで動いていても、それがどの程度まで可能なのかは事前に検討済みなのです。
だから決して大胆でも何でもありません。

仕事においても、特に説明や交渉に行く時は、相手が投げかけてくる可能性のある質問を事前に思いつく限り想定して、答えを用意した状態でその場に臨みます。場合によっては写真資料などのビジュアル化したものすら用意します。
だから、僕の仕事仲間は、僕を「準備万端の人(well prepared person)」と呼びます。感心されることも、皮肉られることも、鬱陶しがられることもあります。
「何故そこまでするのか」と聞かれれば、僕は「相手の信用を得るためだ」と答えます。
でも実際は、ただ想定外の事態に対応できない自分を見せたくないだけなのです。

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