高い整理整頓能力のオモテとウラ /アスペルガー感情認識のメカニズム(2)

アスペルガーの思考と生き様

アスペルガー人は、整理整頓に執着しがちだと言われています。
アスペルガーが持つこだわりなので、方向性はやはり極端です。片付け上手で綺麗好きである反面、その傾向が行き過ぎると、部屋の物の配置場所が少しでも違うと落ち着かなくなってしまうこともあります。いわゆる「几帳面」というやつです。
一人暮らしなら全てが自分の裁量なので問題は起こりませんが、配偶者や家族などとの共同生活では、それが原因で同居人と衝突してしまうことも珍しくありません。

アスペルガー人には「偏執的なこだわり」という柱となる特性があり、整理整頓への執着心にも少なからず影響しています。
しかしそのこだわりの原点は「予想外の出来事に対応できない」ことをカバーするための、アスペルガー特有の処世術なのです。

物事を単純化させて、一本のレールを作り上げる

アスペルガー人は、整理整頓に関しても、これらの思考パターンを最大限利用しています。

  • 超合理的思考
  • 白か黒か、ゼロか百かの二元論的思考
  • 完璧主義
  • 細部へのこだわり

整理整頓の目的は「思考や行動を単純化させる」ことです。
単純明快な一本のレール(決まり切ったパターン)を作ってその上を歩くだけの状態にしておくことで、選択肢を極力排除して、あれこれ迷うことがないようにしています。

  • マイルールの存在
  • ルーティーンを好む
  • 規則性、法則性のあるものを好む
  • 初めてのものへの過剰な警戒心
  • 自己完結思考

といったアスペルガーの特性は、この目的のために派生した思考パターンです。
このような特性を身につけることによって「予想外の出来事に対応できない」というアスペルガー最大級の弱点を補っているのです。
それがわかりやすい形で表面化しているもののひとつが、高い整理整頓能力なのですね。

孤立型アスペルガーである僕も整理整頓は人並み以上に得意で、細部へのこだわりや物の納まりの感覚には多少の自信があります。
部屋のモノの選択と配置は、使い勝手と見た目と自己満足の全てを満たしたつくりになっているし、旅行の荷物を詰める際などは、同行者が「絶対に入らない」と諦めた大量の荷物を簡単にパッキングして感心されることも常です。

情緒不安定になるほど物の位置に執着してはいけませんが、整理整頓はできないよりもできた方がいいと思っています。僕の職業もこの特性を大いに生かせる種類のものなので、これは自分にとっては「生かすべきアスペルガーの特性」として、日々磨きをかけています。

問題は、この高い整理整頓能力にまつわる特性が、目に見えるモノだけでなく自分の情緒や感情に対しても発揮されてしまうことです。
同じ性質の表と裏なので致し方ないのかもしれませんが、情緒や感情を単純化させることのマイナス面が出てしまうと、感情のコントロールができない、融通の利かない人間になってしまいます。

外的刺激と感情の法則性は、かえって感情のコントロールを阻害する

情緒や感情を単純化させるということは、突き詰めていくと「これが身に起こったらこの感情が生じる」というふうに外的刺激と感情を明確に紐付けるということ、つまり「感情のスイッチを作る」ということになります。
他の整理整頓の理論と同じく、この思考パターンの根本にある目的は「想定外の事態に対応しきれない」状況を回避することです。
本来複雑なはずの情緒や感情を単純な一本のレールにし、法則性を与えることで、日々揺れ動く感情に迷いが生じないようにしているのです。

迷いがないというのは楽な部分もあるのですが、これがかえって感情のコントロールを阻害する結果になっているという面もあります。

特に「怒りのスイッチ」「寂しさのスイッチ」「嫉妬のスイッチ」などのネガティヴスイッチは、スイッチを押させた対象への攻撃性に直結してしまうので問題となります。
スイッチが押されても通常であれば、損得勘定や状況判断などの様々な要因が加わることで、直接的な感情表現は制御されるものです。
しかしアスペルガー人の場合、外的刺激と感情が法則化され、いちいち迷わないようにセットされているので、一度スイッチが押されてしまうとその法則に従った形で表に現れてしまいます。
しかも超合理的思考とマイルールのもとで作り出されたスイッチなので、自分以外の人に理解できるわけがありません。

自分が正当性を持ってキレていても相手に理解されなかったり、理解はされても情動的なキレ方に引かれてしまったり、ささいなことに理詰めで反応して嫌がられたりと、アスペルガー人が怒りを表に出した時は、ほとんどの場合何かしらの違和感が自分の中に残ります。
そしてそんな心のやり取りの不全感に、ますます感情への理解が遠のいてしまうのです。

アスペルガー人は想定外の事態にどう対応するべきか

人の情緒や感情は、常に揺れ動いては内外からの刺激によって柔軟に変化しているものです。それを法則化させてガチガチに固めてしまうことは、想像力の低下、ひいては共感力の低下に繋がります。
自分や他人の感情を感覚的に理解できない、というアスペルガーの代表的な特性は、ここから来ているのです。
この特性は、想定外の事態に対応しきれないアスペルガー人がその欠点を補うために身につけた処世術なので、アスペルガー人にとっては必要な能力です。

他人をも巻き込む融通の利かなさがトラブルを招く一方で、思考パターンを法則化させて選択肢を少なくしておくというのは、日常起こる大小の意思決定をとてもラクにしてくれます。
普通の人が悩むようなことにも全く迷わずにサクサク進んでいくので、その点は羨ましがられたり、逆に気味悪がられたりもします。
怖いもの知らずのようにも映るので大胆な人と思われがちですが、実際は全く違います。起こりえる事態に対する意思決定パターンは自分の中ではすでに法則化されていて、それに沿って進んでいるだけなのです。

アスペルガー人が「想定外の事態に対応できない」のは、アスペルガーのアスペルガーたる所以といえるほどの根源的な脳の機能障害で、だからこそそれを補うための様々な思考パターンが派生しているのだと思います。
先天的な脳機能障害の回復は難しいでしょうが、思考パターンは訓練で磨くことができます。
それをアスペルガー人は「頭をフルに使った、入念過ぎるほどの備え」を磨くことで対応しているのですが、いかんせんマイルールが幅を利かせているので、世間一般の常識と合致しているとは限りません。

怒りなどのネガティヴスイッチが押されるのは、たいていが物事の進行が自分のレールを外れたとき、つまり自分の対応能力がキャパオーバーになった時です。
そんな場面は日常にごまんとあるので、アスペルガー人はその都度スイッチを押して、自爆するようにして疲れています。

しかし、冷静な時に考えると分かるのですが、レールを外れることで後に引きずるような大問題に発展することは、実はほとんどありません。

自分の超合理的な思考力や分析力を、頭の良さに関連づけて自画自賛することはあっても、それが「想定外の事態に対応できない」ことの裏返しだとは思ってもみなかったのではないでしょうか。

普通のこととして「想定外の事態に対応できている」と思い込んでいたから、自分のほうが常に正しい選択をしていると勘違いして、他人を安易に否定したりしていなかったでしょうか。

何より、自分の対応しきれないことに怒りすぎていないでしょうか。自分がどんなに準備した気になっていても、世の中コントロールできないことの方がはるかに多いものです。

ここを理解し受け入れることが、感情のコントロールを柔軟にする第一歩になると思います。
「自分が作ったレールと違うからイラついているんだな」と意識できれば、高い整理整頓能力を維持したままで、ネガティヴスイッチが押される回数は確実に減っていくでしょう。

COMMENT

タイトルとURLをコピーしました