「なぜ」と「つまり」の呪縛 / アスペルガーの分析癖

アスペルガーの思考と生き様

「ロジックツリー」というものをご存じでしょうか。
これは、ビジネスその他のさまざまな場面で使われている、問題解決のための論理的思考法のひとつです。

その手法は、ものすごく簡単に言うと、ある一つの問題や疑問に対して「なぜ」を枝分かれ的・連鎖的に深掘りさせていく、というものです。
こうして要素を分解して全体像を可視化させることで、その根本原因である「つまり」を導き出し、解決へとつなげるのです。

アスペルガー人は、何かについて疑問を抱いたり、物事の大小の変化を見たり感じたりすると、この「ロジックツリー」が勝手に頭の中に発生してしまいます。
そして納得のいく「つまり」が導き出されるまで、自分の知識と経験と記憶を総動員した「なぜ」の連鎖が始まるのです。

アスペルガー人の「ロジックツリー的思考」と他の特性との関連性

このアスペルガー人の「ロジックツリー的思考」は、どんな場面でも論理的・合理的に物事を進めようとしてしまう特性からくる「分析癖」の典型的な形で、他人から「考え方がロボットみたい」と嫌がられる一つの原因でもあります。
しかしこれは、

  • 想定外の事態に対応できない
  • 物事や言葉を額面通りに受け止めてしまう
  • 場の空気や他人の気持ちが感覚的に理解できない

という、アスペルガー人が抱える最大級の弱点をカバーするための処世術なので、場面によっては扱いづらいとはいえ、アスペルガー人にとっては必要な能力です。

これがなければ、弱点は弱点どころか致命傷になってしまい、物事への対応ができなくなって無気力状態になってしまったり、人の感情への理解度がさらに低下して人間関係が築けなくなるなど、社会生活に支障をきたすほど深刻な問題を抱えることになってしまうのです。

アスペルガー人によるロジック(論理)のツリーは、一度脳内に発生してしまうと、これらの思考の癖が加わって、とどまることなく成長を続けようとします。

  • 物事を多方向から突き詰めて考える癖
  • 無理やりにでも答えを出そうとする癖
  • 結論が出るまで考えるのを止めない癖

ツリー状の「なぜ」の連鎖がどこまで枝分かれして伸びていくかはその人の経験値と知識量と頭の回転の良さによるので、知能指数の高い部類のアスペルガー人ほどこの呪縛に苦しむことになります。
答えを出す必要のないものですらあれこれと深く考え続けて、時間もパワーも浪費して脳が慢性的に疲れてしまうのです。

しかし、その終わりの見えない呪縛に逆らおうとする特性も存在します。
これらの特性により、あらかじめ思考の方向性を単純化させて決まり切ったパターンを作っておくことで、結論を出しやすくし、ツリーが無尽蔵に伸びてしまうのを防いでいるのです。

  • マイルール、マイペースの存在(思考をパターン化させる)
  • 規則性や法則性のあるものを好む(思考を単純化させる)
  • 興味のあるものにしか意識を向けない(思考する対象を減らす)
  • 白か黒か、ゼロか百かの二元論的思考(思考中の選択肢を減らす)

アスペルガーには問題となる様々な特性がありますが、こうやって検証していると、それぞれが特異かつ極端である一方で、そのリミッターが外れないギリギリのラインで互いの弱い部分を補い制御し合うものとして機能していることが理解できます。

「ロジックツリー的思考」のメリットとデメリット

「なぜ」と「つまり」を基準に物事を考えるこの思考パターンは、何事に対しても明確な答えがないと気が済まないということの現れでもあります。
そのため、仕事などの論理的思考が重視される場では「物事をちゃんとよく考えている人」、感情が優先される人間付き合いの場では「なんか面倒くさい人」という印象を周囲に与えます。

人間関係においてこの思考パターンが発揮されると、相手の言葉や行動、またそれらが発せられるタイミングなどに疑問を覚えるたびに、その真意や根拠を探るべく「なぜ」と「つまり」の連鎖が始まります。

相手自身も分かっていないことについて勝手に考えて結論を出すので、それが合っていても間違っていても、相手にとっては「決めつけ」でしかありません。
相手自身が意識的にしたことであれば、その結論は相手の「心を暴く」ことになるので、相手は決していい気持ちはしないでしょう。

相手がアドバイスを求めている場面であればそれがうまく働くこともありますが、自分自身にとっても、相手に対して的外れな誤解を抱いてしまったり心に余計なモヤモヤを抱える種にもなってしまうので、とても厄介です。

一方で、先を読んで行動したい時や、問題を効果的に解決したい時、ミスを最大限避けたい時、ものの仕組みや相関関係を理解したい時などは、この「ロジックツリー的思考」が大いに役に立ってくれます。

しかしここで導き出された結論は先のそのまた先のことまで想定しているため、説明しても理解してもらえないことが多く、時として周囲と意見が合わずに衝突してしまうことがあります。
僕も仕事上や事務的なプロセスにおいて、この手の衝突は絶えません。

このような失敗体験による諦めが、アスペルガー特有の「自己完結思考」や「人間嫌い」に拍車をかける一つの要因となっているように思います。

結論。分析はしても、受け流す術を身につけよう

アスペルガー症候群は先天的な脳の機能不全なので「分析癖」そのものをなくすのは不可能に近いことですが、自分の心を常にモニタリングする訓練をすることで、ある程度コントロールすることは可能です。

本当の答えが分からないものを深堀りしていると感じた時や、考えて結論を出したところで自分も誰も得しないことだと感じた時は、それを無駄だと判断してストップをかけたり、導き出した結論を単なる物事の一つの側面として軽く受け流すことだってできるのです。

頭に浮かんだ結論をいちいち相手に伝えずに自分の中だけに留めておくというのも、無駄な軋轢を避ける一つのテクニックです。

これは僕が実践している「怒りの感情をコントロールする訓練」と同じ手法ですが、効果は確実にあると思っています。

COMMENT

  1. 六川 より:

    こんにちは

    文中に挙げられた3つの癖は仕事上では重宝するのですが
    おっしゃるとおりアスペにとっては諸刃の剣になりがちです

    「物事を多方向から突き詰めて考える癖」
    色々な角度から考えれば答えの精度が上がりそうな気がするのですが
    おそらく錯覚に近い強迫観念みたいな癖です

    「無理やりにでも答えを出そうとする癖」  
    「結論が出るまで考えるのを止めない癖」
    宙ぶらりんな状態に置かれると極度の不安を感じるために
    心がみずからの安寧を求める結果から生じる癖みたいです

    これら3つの癖もTPOや程度・度合いをわきまえれば
    アスペ人のみならず万人に取って大きな武器になり得るのですが
    アスペ人はこの「わきまえ」が全くもってできないんですよね
    何をするにしても極端で極論・極致が大好物
    仕事を離れたほんの雑談や世間話程度に上記3つの癖を最大限に押し付けられたら常人にとって甚だ迷惑です

    ところで3つの癖をあえてツリー化してみるとその上位概念に相当するのは
    「白か黒か、ゼロか百かの二元論的思考」であるかと思います
    この二元論的思考から抜け出し「ほどほどに」とか「曖昧・ファジー」を
    自然に受け入れられることがアスペ人の理想であり目標でもあり
    そうすると「いい加減」とか「中途半端」とか日本人から揶揄されるタイ人が
    アスペ人にとっては実は格好のお手本になるのかもしれません
    コンタイは事の軽重によらず「受け流す」達人ですから

    • じゅうたろうじゅうたろう より:

      こんにちは。コメントありがとうございます。

      宙ぶらりんの状態に対する恐怖、これはとてもあります。
      僕の場合、何かを宙ぶらりんの状態にしておいたら、それがまた自分の身に降りかかった時にどうしていいかわからない、ということへの不安からくる恐怖なんだと思います。
      それが大問題に発展することなんてほとんどないことは過去の蓄積で分かっているのに、
      結局、自分の安心する形を求めるために脳は動き続けているということなんですね。

      タイ人の「いい加減さ」は、心を楽に保てるばかりか、立場が逆になると「寛容」になり、実際これに助けられたことも数知れずです。
      自分が100%悪い交通事故で、保険屋が到着するまで相手と談笑して最後は握手して別れるなんてこともありました。
      もちろん「これで本当にいいのか?」という葛藤とセットになっているので一筋縄ではいきませんが、僕にとっては見習うべきところが多いと思っています。

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